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Musica Argentina Brasileira All Frontiers


by sh2o

倉地久美夫 『うわさのバッファロー』

倉地久美夫 『うわさのバッファロー』_a0023718_12221312.jpg倉地久美夫 
『うわさのバッファロー』美音堂

倉地久美夫の1996年のアルバム『rumored buffalo』のリマスター盤。

倉地久美夫ソロライブ 『I heard the ground sing』 『うわさのバッファロー』と突進中。もう尋常じゃない嵌まり込みようは、久しぶりの熱狂と魔境の冒険王気分。待ちきれん!とばかりに届いたこのアルバム『うわさのバッファロー』。なのに一聴した後は、あまりピンとこなかった。徹夜明けで方向と性能が消化不良なチェンバーロックを聴いた時のような気まずい感触~と思っていたのだが…大間違いだった!

翌日深夜、ヘッドホンを取り出して大音量で聴きなおす。目が覚めた。この深い味わいは、まるで三日目のパンツのような匂い。三日目のパンツは臭い、確かに。でもその臭さは二度三度と近づけたくなる禁断一歩手前の生暖かい不思議関係。

面子は『I heard the ground sing』と同じ。倉地は唄とギター、菊地成孔がサックス、ドラムスには外山明。一番印象が違うのが独特の詩の内容・世界だが、それは時の流れそのときの気分によって当然のことだろう。倉地の歌い方が『I heard the ground sing』と違う。『I heard the ground sing』が非常に素直に歌っているように聴こえるのに対して、この『うわさのバッファロー』ではわざとくぐもった、口ごもったような歌い方。演歌以前の歌手の声のようにも聴こえる、ちょっと古ぼけた音源から聴こえて来るようなざわつきとざらつきのある音だ。
そのざわつきとざらつきが最初はしっくりこなかったのだろう。今はそれと同じ振幅で怯える、眠る、笑う、震える、肌こする。なんだ消化不良だったのは自分の臍下三寸だった。ちょっと控えめに後ろ方で歌っているだけなんだ。ちゃんと見つめてこっちを向かせないといけないんだね。OKです!

菊地外山も自由奔放。『I heard the ground sing』では倉地菊地のダブルリードギター!という感じで倉地のギターと菊地のサックスとのコンビネーションに惚れ惚れ。しかし本作では菊地は鳴かずに自由に呟いている印象。そう菊地のサックスは、倉地のギターではなく声に対して吹いているんだ。そこはやっぱり発売当初は倉知久美夫名義ではなく、倉地・菊地・外山の三人の連名アルバムだったからだろうか。外山もポケットの中で爆竹を鳴らして歩いているかのような演奏。あっち行ってはばら撒き、こっち行っては暴発する。

「しまうまタクシー」「うわさのバッファロー」は是非ライブで聴いてみたい曲だ。鬼火のような目玉に入ってくる熱い塊を感じる。とくに「うわさのバッファロー」でのノイズから漏れ聴こえる係員の説明は、怪しいラジオを聴いているようで出色。「鉄塔」菊地のサックスが印象的。鉄塔を囲む金網をゆすり叫んでいるような音だ。怒りを飲み込む嗚咽がふいに漏らす本音。う~んこれもライブで聴きたい!前置きなしで何気に演奏されたら涙流しそう。この曲が一番好きかな…

『I heard the ground sing』と比較してしまうと、試行錯誤中というかまだまだ過渡期なのかな?という印象を持ってしまうが、それは全く必要のない断面。真正面から差し込んでしまえばいい。そうすればこのアルバムは常に何かを語りかけてくれる一枚になる。

薄っぺらいが中身の濃い岩波文庫の短編小説集みたいな作品。
もちろん分類は「その他」ではなく、「倉地久美夫」以外にはありません。
by sh2o | 2007-05-10 19:00 | 倉地久美夫